行き違いの想いの果てに… <惹き合う魂の鼓動>














通っていたはずの学校なのに、全然方向感覚が掴めない。

同じ場所をぐるぐると回っている感覚の中、なんとか外へ出る事ができた。


「…?!君は…!」

目を擦って、前方に立ち塞がる人物を確認する。


(あれは…、僕の部屋に居た中学1年生のリョーマ…??)


そのリョーマの前まで走ると、ゆっくりと立ち止まる。

幼さの残る表情、レギュラージャージ、愛用の帽子……。

間違いなく、中学1年生の越前リョーマが居るのだった。

リョーマはにこりと微笑むと、一定の速さで走り出した。

途中立ち止まったかと思うと、こいこいと手招きをするのだった。


(これは君が仕掛けた罠?…それとも…)

「僕は…君を信じるよ?」


誰に言ったわけでもない台詞。風の音に消された言葉に苦笑し、リョーマの後を追うように走る。


(この方向は…やっぱり、僕の忘れ物はあそこにあったんだね……)


目に涙を滲ませながら、期待と不安を抱えて走る。

目の前に居るリョーマは、掴んだら消えてしまいそうな存在。

ならば…本物のリョーマは?

…今、目の前で走っているリョーマも、自分の願望が生み出した幻ではないのかと。

心に浮かぶ不安に負けぬように、無心で走るのだった。












































暫くすると、テニスコートの前で立ち止まる『リョーマ』


「此処は…やっぱりテニスコートだったの?僕の忘れ物がある場所は……」


リョーマは物質に触れる事無く、幽霊のようにコート内に入って行く。

その後を追おうと、必死で足を動かす。

息が切れるのを抑え、コートの中に入る事を試みる。

何故か鍵は外れていて、簡単に入る事が出来るのだった。


「…あれは…?」


コートに揺れる、3つの影。…一つは幽霊のようなリョーマだ。もう二つは…?


「ま…まさか…、本当に?」


その影のもとまで走ると、3つの中の一つに抱きつく。


「……周助…。何で此処に…?」


不二が抱きしめた人物は『本物の』リョーマだった。

テレビや雑誌で見続けた顔。…なにより、存在感がある。


「そう言うリョーマだって、何で此処に…?まだアメリカに居るはずでしょ…?」

「周助の夢を見たら…逢いたくなっちゃって…。この人が、連れてきてくれたんだよ?」


リョーマの指差した先に居たのは、3つ目の影の人物で…紛れも無く、中学3年生の自分だった。


「君達は…何者なの?」


そう問い掛けると、二人は微笑み合うように顔を見合わせる。

次の瞬間には、僕とリョーマ、お互いの体に溶け込むように一体化するのだった。


「これは…俺達の気持ちの塊だったの…?」


そう呟くリョーマに、あぁそうか。と納得する。


「肉体が会いに行こうとしないから、気持ちが先に惹き合ってしまったのかもね…」


自分の中に溶け込んでいった『中学三年生』の不二周助に、感謝する。

きっとリョーマも同じ気持ちなのだろう。そっと自分の胸を撫で下ろしていた。


「…周助、俺…」


哀しそうに瞳を滲ませるリョーマを直視出来なくて、抱きしめてしまう。


「…め…、ごめ、ん…。僕があの時逃げたから…君は…」

「周助……。俺、ね…今でも周助の事、愛してるよ…?」


そっと表情を伺うと、不安そうなリョーマの顔があった。


「僕も…、僕もリョーマの事が好き……。もう一度、やり直したい……」


僕の言葉に、そっと腕から逃れるリョーマ。


「…周助、俺達はやり直せないよ…」


その言葉に、心の底から涙が流れるようだった。

自分で思っていた以上に、僕はリョーマに酷い事をしていたのか?


「…やり直す事は出来ないけど、新しく関係を作るのはいいよ」

「……え?」


リョーマの意外な台詞に、一瞬混乱する。


「新しい俺達を作るなら…俺も周助と付き合いたい…」

「…リョ…リョーマ……」


言葉とどちらが早かったか、リョーマのその唇にキスをしていた。


「愛してる…。これから、新しく作ろう…?」

「うん…!これからは、ずっと一緒に居て…?」

「永遠に一緒だよ…。これからは、ずっと、ね…」





















その翌日、リョーマはまたアメリカに発った。…急に来たようだし、心配している人も居るだろうから。

そんなリョーマを見送った後、僕は米国の大学への留学手続きを済ませ、荷物をまとめる。

リョーマから遅れて2週間、僕は日本を離れ渡米する。

愛する人を放さぬよう、ずっと抱いているために…。

愛しい人を悲しませる事のないように…。

これからも僕は、君だけを思って生きていけるように…。

様々な思いを抱え、飛行機は飛び立つ。

着陸先に待つ、恋人の事を考えながら、僕はそっと目を閉じるのだった…。







〜End〜